トコジラミに燻煙剤は効果なし!オハイオ州立大学の研究で明らかに。

トコジラミ(南京虫)は、日本でも再び問題となりつつある厄介な害虫です。トコジラミは小さな隙間や家具の裏側など、通常の殺虫剤が届かない場所に潜んでいるため、駆除が非常に困難です。一般家庭でよく使われる「バルサン」のような燻煙剤は、部屋全体に殺虫成分を行き渡らせることで害虫を駆除することを目的としています。しかし、これらの燻煙剤は本当にトコジラミに効果があるのでしょうか?

研究内容:市販の燻煙剤のトコジラミ駆除効果を検証

この疑問を解決するために、オハイオ州立大学の研究チームは、市販されている3種類の燻煙剤を使って、トコジラミに対する効果を検証する実験を行いました。

実験の方法

実験では、3種類の燻煙剤を、以下のトコジラミ集団に対して試験しました。

野外から採取した5つのトコジラミ集団(EPM、King、Kingry、Marcia、Pointe)

各集団は、それぞれ異なる家庭や施設から採取されており、野外環境におけるピレスロイド耐性を持っている可能性があります。

実験室で飼育されているHarlan系統

1973年に収集され、ピレスロイドに対して非常に感受性の高いトコジラミの系統です。実験室で長期間維持されており、他の集団との比較対象として使用されました。

各トコジラミ集団を2つの条件で燻煙剤に曝露させました。

1. 直接曝露条件

トコジラミを開放状態のペトリ皿(ふたのない容器)に置き、燻煙剤の成分に直接さらします。この条件では、殺虫成分が直接トコジラミの体に触れることが予想されます。

2. 隠れ場所を提供した条件

トコジラミをペトリ皿に置き、そこに小さなフィルター紙を追加して「隠れ場所」を提供します。トコジラミがこの隠れ場所に潜むことができるため、燻煙剤の成分がどれだけ効果的に隠れ場所まで浸透するかを検証することができます。

さらに、もう一つの条件として、トコジラミを小さなプラスチック容器に入れ、その上を薄い布で覆う「強制的な隠れ場所」を設定しました。この条件では、燻煙剤が布を通過してトコジラミに到達するかを確認することが目的です。

各実験は、2時間燻煙剤を噴霧した後、トコジラミの状態(健康、鈍化、協調運動の欠如、瀕死、死亡)を経時的に観察し、24時間後および5~7日後のトコジラミの致死率を測定しました。

実験のイメージ

この実験では、トコジラミが通常潜む隠れ場所を再現し、家庭内での実際の状況を想定した条件を設定しています。例えば、トコジラミが家具の隙間やカーペットの下に隠れている場合、燻煙剤の成分がどこまで浸透してトコジラミに到達するのかを確認することができます。

また、実験に用いられた「バルサン」のような燻煙剤は、部屋全体に殺虫成分を行き渡らせることで駆除を試みますが、トコジラミが実際にどの程度これらの成分にさらされるかを、隠れ場所の有無によって比較しました。

このように、研究は一般家庭で使用される燻煙剤(バルサンなど)がトコジラミ駆除に有効かどうかを、直接的かつ隠れ場所を考慮した条件で詳しく検証するものです。次のセクションでは、実験結果について詳しく説明します。

研究結果:意外な結果に

研究の結果、市販されている燻煙剤は、トコジラミに対してほとんど効果がないことが明らかになりました。特に、野外から採取されたトコジラミ集団は、いずれの燻煙剤に対しても耐性を示し、十分な駆除効果が見られませんでした。

1. 直接曝露条件での効果

トコジラミを隠れ場所のない開放状態(直接曝露)で燻煙剤にさらした場合でも、5つの野外集団のトコジラミはほとんど死ぬことがなく、健康な状態を維持していました。これらのトコジラミは、ピレスロイド耐性を持っているため、燻煙剤に含まれる成分(ピレスロイドやピレトリン)に対して耐久性を示し、殺虫成分が直接触れても致死率は低いままでした。

ただし、Harlan系統(ピレスロイド感受性の高い実験室飼育集団)のみが高い致死率を示しました。Harlan系統は、燻煙剤に含まれる殺虫成分に対して非常に弱いため、2時間の曝露後、ほとんどの個体が死亡したことが確認されました。しかし、これは現実の環境に存在するトコジラミには当てはまらず、実生活での燻煙剤使用時の効果を示すものではありません。

2. 隠れ場所を提供した条件での効果

トコジラミに隠れ場所(フィルター紙)を提供した場合、すべての燻煙剤でトコジラミの生存率がさらに高くなりました。燻煙剤の成分が隠れ場所まで浸透せず、トコジラミが殺虫成分に接触しないことが原因と考えられます。

これらの結果は、燻煙剤がトコジラミの隠れ場所にいる個体にほとんど影響を与えず、隠れ場所に対する浸透力が極めて低いことを示しています。

3. 強制的な隠れ場所条件での効果

燻煙剤がトコジラミの隠れ場所にどの程度効果を発揮するかを調べるために、トコジラミを布で覆ったプラスチック容器(強制的な隠れ場所)に配置して行なった実験の場合。

この条件でも、ほとんどのトコジラミが健康な状態を維持し、燻煙剤の効果が現れませんでした。Harlan系統は布を通過した燻煙剤成分に対して高い致死率を示しましたが、EPM集団は布の下に隠れることでほとんど被害を受けず、健康な状態を保ちました。

このことから、燻煙剤の成分が薄い布すら通過できないことが確認され、家庭内のカーテンや家具の隙間といった環境下では、燻煙剤がトコジラミに対して有効でない可能性が高いと考えられます。

4. 長期的な効果と残留効果の欠如

5~7日後の観察でも、燻煙剤の残留効果はほとんど見られませんでした。再び隠れ場所から出てきたトコジラミも生存しており、燻煙剤による遅延効果や長期的な駆除効果が欠如していることが確認されました。トコジラミの体表に付着した燻煙成分が時間経過とともに効果を示すことはなく、最終的にほとんどの個体が健康な状態を維持していました。

5. 燻煙剤使用時のトコジラミ移動リスク

研究では、燻煙剤の使用がトコジラミの移動を促進する可能性があることも指摘されています。殺虫成分にさらされると、トコジラミは隠れ場所から出てきて移動が活発になることが確認されており、これにより隣接する部屋や住居に移動し、トコジラミ問題を拡散させるリスクがあります。

結論として、燻煙剤はトコジラミ駆除に不向き

この研究を通じて、市販されている燻煙剤はトコジラミの駆除には適していないことが明らかになりました。以下の理由から、トコジラミの駆除を燻煙剤に頼ることは効果的でないどころか、逆効果を引き起こす可能性もあります。

1. 燻煙剤がトコジラミに効かない理由

燻煙剤に含まれるピレスロイド系殺虫成分は、トコジラミに直接触れることで初めて効果を発揮します。しかし、今回の実験では、野外から採取されたトコジラミ集団はすべてピレスロイド耐性を持っており、直接噴霧された場合でもほとんどの個体が生存していました。特に、隠れ場所が提供された場合には、燻煙剤の成分が届かず、トコジラミの生存率はさらに高くなりました。つまり、燻煙剤がトコジラミに直接接触したとしても、耐性を持つトコジラミには効果がほとんど見られません。

2. 燻煙剤によるトコジラミの移動リスク

燻煙剤を使用すると、トコジラミが殺虫成分から逃れるために隠れ場所から出てきたり、住居内を移動したりすることが確認されています。これにより、トコジラミが別の隠れ場所へ逃げ込み、さらに奥まった場所に潜んでしまう可能性があります。最悪の場合、隣接する部屋や住居に移動して、被害が広がるリスクも考えられます。殺虫成分がトコジラミを刺激し、逃走行動を引き起こすことで、家庭内での駆除がより困難になる危険性があります。

3. 燻煙剤の成分が隙間や家具の裏側に届かない

トコジラミは、日中は家具の隙間やベッドのマットレスの裏側、壁の割れ目など、通常の殺虫剤が届かない場所に潜む習性があります。燻煙剤の煙や成分がこれらの隠れ場所まで浸透することは難しく、実際の家庭内では、燻煙剤を使ってもトコジラミにほとんど影響を与えられません。さらに、実験結果からも、薄い布やフィルター紙を通過できないことが確認されており、燻煙剤の成分がどれだけ部屋全体に行き渡っても、トコジラミの潜伏場所にはほとんど届かないことが示されています。

4. 残留効果の欠如

実験では、燻煙剤を使用しても、5~7日後に再び隠れ場所から出てきたトコジラミが生存しており、燻煙剤の残留効果はほとんど見られませんでした。これは、燻煙剤が一時的な効果しか持たず、トコジラミが活動を再開するのを抑えることができないことを示しています。燻煙剤の使用後もトコジラミの駆除を継続する必要があるため、燻煙剤単独での駆除は不十分です。

以上の理由から、燻煙剤はトコジラミの駆除には向いていないと結論づけられます。燻煙剤に頼るだけでは、トコジラミの生存を許し、さらなる被害拡大のリスクが高まる可能性があるため、他の駆除手段を検討することが必要です。

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